始まりがあれば終わりが来るのも必然。
わたしは長い狩猟生活の節目となる古龍ナナ・テスカトリとの最終決戦を迎えた。
およそいままでの世界観からは想像もつかないほど神秘的で古びた塔。最上階にそれはいた。荘厳にこちらを見据える真紅の眼。ハンターとして過ごした時間に思いをはせ、禍々しき邪気を放つ猛毒の剣を握りなおす。古龍の蒼い体躯は燃え盛る炎で包まれ、周囲には陽炎と火の粉が揺らめいた。熱気で喉が焼ける。
距離を取り、ペイントボールを構えると刹那、古龍は大地を蹴り、こちらめがけて宙に舞った。構えた盾に力を込め、全身で応じる。ズシリと重い突進を受け止め、大きく息を吸った。古龍がまとった炎は喉どころではなく肺や皮膚まで焦がす。額から流れる汗さえも即座に乾いた。
絶え間なく動き続ける古龍と距離を取り、その動作をつぶさに捉える。この世界に住む生物である以上、必ずその動きには規則性がある。跳躍、旋回、ひっかき、飛行からのブレス、地上でのブレス、可燃性の龍鱗を撒き着火による大爆発を起こす…。死角を探し、周囲を走り続けた。
はやる気持ちと討伐失敗への不安で気持ちが折れそうになるのを懸命にこらえ、周囲を走り続けた。落ち着けば避けられる。落ち着けばガードできる。自分に言い聞かせ、様子を伺うこと数分、その動きは討伐困難と噂された嵐の古龍クシャルダオラに酷似していることに気づく。ならぱ死角も同じはず。
覚悟を決め、気合とともに飛び掛り、一発、二発…。熱さで焦げる肺。みるみる体力が減っていくのが分かる。一発、二発…。距離を取って回復。一発、二発…。砥石で切れ味を回復。一発、二発…。
一向に弱る気配を見せない古龍に対して、こちらは手持ちの回復薬が尽きそうな勢い。 立て続けに飲み干した回復薬のおかげで、暑さ対策に飲んだクーラードリンク、防御力を上げるためにかじった忍耐の種、勝利を祈願して村長ととった朝飯、全てを吐き出しそうになる。このまま地面に倒れこんでしまえば楽だろうか。いままで狩ってきた飛竜たちも同じことを感じたのだろうか。
一発、二発…。疲労で動きが鈍くなる。一発、二発…。斬りつけるたび減っていく体力。もう駄目かと思ったそのとき、古龍を包む熱波が弱まった。
ゴポゴポと独特の異音。古龍の皮膚は紫に腫れ上がり、壊死を始めているではないか。確かクシャルダオラも毒に犯されると風を身にまとうことができなくなった。
それで察した。ここが勝機だと。
気合とともに飛び掛り、一発、二発…。食らえば骨ごと砕かれそうな前脚の引っかきを交わし、毒の苦しさに身もだえして左右に振るう尻尾を交わして斬撃を与え続けた。
もはや体力を回復する暇さえも斬撃に回した。一発、二発…。たまらず古龍が転倒する。さらに斬撃を加え、追撃とばかり距離を取って閃光弾を投げつける。やはりクシャルダオラと同じく一時的に視覚を奪うことができた。気合とともに飛び掛り、一発、二発…。双方、残り体力はわずか。終末が近づいていることを確信した。
再び距離を取って閃光弾を投げつけ、止めとばかりに大タル爆弾を設置。小タル爆弾を設置すればという段で古龍が吼えた。
見る間にすくむ手足、萎縮する筋肉。完全に失念していた。飛竜特有攻撃の一つ、咆哮だ。
続く回避不能の連携に腹をくくる。周囲には龍鱗が舞い上がり、大爆発の予備動作が始まる。キラキラと舞う火の粉に古龍が歯軋りで着火を試みた。その口元は「止めだ」と笑んでいるように見えた。
だが、わずかに動く指先で必死に盾を握り締め、わたしも笑んだ。「お前が先だ」と。
轟音とともに周囲は爆炎に包まれた。爆発に掻き消されたが古龍の断末魔も確かに聞こえた。誘爆したのだ。自らの下腹部に置かれた大タル爆弾に。
しばらく立てなかった。村に帰ったのは出立してから二日後。丸一日眠っていたらしい。
わたしが塔に向かったのと同じ頃、村ではいくつかの出来事があったようだ。その話を聞いて、わたしの決意も固まった。
数日後、船大工の親方から、船で出かけないかと誘われたが、丁重に断った。始まりの村についての噂は聞いている。興味がないわけではない。しかし今は向かうべきではないと思った。
まだまだわたしはハンターとしては半人前。ここまでこれたのもいくつかの偶然が重なったからだと思う。もっと強くなりたいのだ。もっと、もっと。
身支度を整え、村を後にした。誰にも別れは告げなかったが、荷物には覚えのないアイテムがいくつか入っていた。コインは教官、装飾品は工房のばあちゃん、秘薬は調合屋のあるじか…。
ふと、どこかで聞いた詩を思い出した。
出会いの数だけ別れは増える それでも希望に胸は奮える…
わたしは街に向け、再び歩き出した。
わたしは長い狩猟生活の節目となる古龍ナナ・テスカトリとの最終決戦を迎えた。
およそいままでの世界観からは想像もつかないほど神秘的で古びた塔。最上階にそれはいた。荘厳にこちらを見据える真紅の眼。ハンターとして過ごした時間に思いをはせ、禍々しき邪気を放つ猛毒の剣を握りなおす。古龍の蒼い体躯は燃え盛る炎で包まれ、周囲には陽炎と火の粉が揺らめいた。熱気で喉が焼ける。
距離を取り、ペイントボールを構えると刹那、古龍は大地を蹴り、こちらめがけて宙に舞った。構えた盾に力を込め、全身で応じる。ズシリと重い突進を受け止め、大きく息を吸った。古龍がまとった炎は喉どころではなく肺や皮膚まで焦がす。額から流れる汗さえも即座に乾いた。
絶え間なく動き続ける古龍と距離を取り、その動作をつぶさに捉える。この世界に住む生物である以上、必ずその動きには規則性がある。跳躍、旋回、ひっかき、飛行からのブレス、地上でのブレス、可燃性の龍鱗を撒き着火による大爆発を起こす…。死角を探し、周囲を走り続けた。
はやる気持ちと討伐失敗への不安で気持ちが折れそうになるのを懸命にこらえ、周囲を走り続けた。落ち着けば避けられる。落ち着けばガードできる。自分に言い聞かせ、様子を伺うこと数分、その動きは討伐困難と噂された嵐の古龍クシャルダオラに酷似していることに気づく。ならぱ死角も同じはず。
覚悟を決め、気合とともに飛び掛り、一発、二発…。熱さで焦げる肺。みるみる体力が減っていくのが分かる。一発、二発…。距離を取って回復。一発、二発…。砥石で切れ味を回復。一発、二発…。
一向に弱る気配を見せない古龍に対して、こちらは手持ちの回復薬が尽きそうな勢い。 立て続けに飲み干した回復薬のおかげで、暑さ対策に飲んだクーラードリンク、防御力を上げるためにかじった忍耐の種、勝利を祈願して村長ととった朝飯、全てを吐き出しそうになる。このまま地面に倒れこんでしまえば楽だろうか。いままで狩ってきた飛竜たちも同じことを感じたのだろうか。
一発、二発…。疲労で動きが鈍くなる。一発、二発…。斬りつけるたび減っていく体力。もう駄目かと思ったそのとき、古龍を包む熱波が弱まった。
ゴポゴポと独特の異音。古龍の皮膚は紫に腫れ上がり、壊死を始めているではないか。確かクシャルダオラも毒に犯されると風を身にまとうことができなくなった。
それで察した。ここが勝機だと。
気合とともに飛び掛り、一発、二発…。食らえば骨ごと砕かれそうな前脚の引っかきを交わし、毒の苦しさに身もだえして左右に振るう尻尾を交わして斬撃を与え続けた。
もはや体力を回復する暇さえも斬撃に回した。一発、二発…。たまらず古龍が転倒する。さらに斬撃を加え、追撃とばかり距離を取って閃光弾を投げつける。やはりクシャルダオラと同じく一時的に視覚を奪うことができた。気合とともに飛び掛り、一発、二発…。双方、残り体力はわずか。終末が近づいていることを確信した。
再び距離を取って閃光弾を投げつけ、止めとばかりに大タル爆弾を設置。小タル爆弾を設置すればという段で古龍が吼えた。
見る間にすくむ手足、萎縮する筋肉。完全に失念していた。飛竜特有攻撃の一つ、咆哮だ。
続く回避不能の連携に腹をくくる。周囲には龍鱗が舞い上がり、大爆発の予備動作が始まる。キラキラと舞う火の粉に古龍が歯軋りで着火を試みた。その口元は「止めだ」と笑んでいるように見えた。
だが、わずかに動く指先で必死に盾を握り締め、わたしも笑んだ。「お前が先だ」と。
轟音とともに周囲は爆炎に包まれた。爆発に掻き消されたが古龍の断末魔も確かに聞こえた。誘爆したのだ。自らの下腹部に置かれた大タル爆弾に。
しばらく立てなかった。村に帰ったのは出立してから二日後。丸一日眠っていたらしい。
わたしが塔に向かったのと同じ頃、村ではいくつかの出来事があったようだ。その話を聞いて、わたしの決意も固まった。
数日後、船大工の親方から、船で出かけないかと誘われたが、丁重に断った。始まりの村についての噂は聞いている。興味がないわけではない。しかし今は向かうべきではないと思った。
まだまだわたしはハンターとしては半人前。ここまでこれたのもいくつかの偶然が重なったからだと思う。もっと強くなりたいのだ。もっと、もっと。
身支度を整え、村を後にした。誰にも別れは告げなかったが、荷物には覚えのないアイテムがいくつか入っていた。コインは教官、装飾品は工房のばあちゃん、秘薬は調合屋のあるじか…。
ふと、どこかで聞いた詩を思い出した。
出会いの数だけ別れは増える それでも希望に胸は奮える…
わたしは街に向け、再び歩き出した。
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